この記事は、
Trick-taking games Advent Calendar 2015 の 9日目にあたるエントリーです。
※残念ながら「ゲームデザイン」については特に語っていません。ご注意ください。
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昨年、
Board Game Design Advent Calendar 2014にて書いた記事は
こちらです。
ようやっと企業からお仕事をいただけるボードゲームデザイナーになれたので、それまでの過去を精神論多めで語った自伝的なお話です。
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偏食のトリックテイク〜トリテはあまりやりません〜さて、昨年もアドベントカレンダーに載せる記事を書いたのだけど、今年もなぜか書いています。
基本的に、私は「やりたがり」な性分であり、何にでもいっちょ噛みしたがります。ゴリゴリ。
ただ今回はトリックテイキング(以下、トリテ)をテーマにしたものなので、昨年に書いたゲームデザインの話とはまた趣が異なります。
私はあまりトリテをやりませんさて、もう完全に出だしで言っちゃいけない雰囲気の言葉が表題になっているのですが、事実なので仕方がない。
私は「トリックテイキング系」と呼ばれるジャンルのゲームをあまりやりません。
と言うより、そう呼ばれるゲームの多くが持っている特徴を私は好ましく思っておらず、その点で敬遠しがちになっているのです。
・複数回のゲームを行うことを前提としているトリテには「手札運」があります。ほとんどのトリテはゲーム開始時、全員にランダムにカードを配ります。
それらのカードには強弱があり、手札の偏りとゲームの成り行きによって、多少の有利不利が発生します。
そういったゲームは「複数回のゲームを行うことで手札運を緩和する」という方法を取っている場合が多く、
またトリテのほとんどはそうしています。
この「複数回のゲームを行う」というのは、前述のような手札運の緩和として使ったり、初見ではゲームの勘所が分かりにくい場合などに有効だったりして、必ずしも悪しきルールというわけじゃありません。
ただ、逆に言えば「初見ではわかりにくいゲーム」だったり「手札運の強いゲーム」という評価が内包されているのだと言えなくもないのですが……。
でも、私は何もこれ1つを指して「あまり良いシステムじゃないよね」というわけではありません。
もう1つのよくある特徴と合わさることで、私は少しゲンナリするのです。
・得点を表示するためのチップが付属していない前述の「複数回のゲームを行うことを前提としている」というのに付随する特徴として「それらのゲームを通じて獲得した得点を全て計上していく」というものがあります。
全てのトリテがそうだというわけではないですが、この方式を取っているものは非常に多いです。でも、それも別にかまわないのです。
ただ、その計上していく得点を表示するチップがゲームに入っていないことを除けば……。
前述の2つの特徴を合わせ、やや否定的な表現をするならば。
「複数回のゲームを行って得点を計上して行き、その多寡を競い合うゲームデザインなのに、それを表示する何かをゲームに付属させていない」となります。
こうなってしまっているトリテは割と多く、ちょっと残念な気持ちになります……もちろん全てのトリテがそうではありませんが。
元々、トリテはトランプで行うゲームだったのですから、トランプカード以外のグッズが別途として必要となるのは仕方ない、という見方もあるかと思います。
しかし「トリックテイキング系ゲームです」とパッケージングされている商品に、それらが付属していないのは、どうにもサービス不足に思えてならないのです。
しかもゲーム中に獲得する得点が多いゲームほど、この特徴は顕著となります。そりゃ大量のチップが必要だから、その確保をプレイヤーに委ねるんだろうって話もわかるといえはわかるのですが……。
この話は「そんなもんGPのゲームチップでも用意すりゃ事足りるだろうが」って言われると、まあそれまでの話なんですが、たまたま持ってない事もあるじゃないですか。そんな時にせっかくプレイしようとしたゲームができないってのは、できれば無くしたいし、無くしてほしいわけで。
私がトリテをあまり好きじゃないのは、トリテと呼ばれるゲームの多くに上記の特徴があるせいです。
でも、「チップ用意するのがめんどくせーよぅ」というトリテ偏食家な私でも、オススメできるトリテは存在します。なにぶんあまりやっていないので2つしかないですが、今回はそちらをご紹介します。
・セブンショット
本作はサークル「
イリクンデ」が製作したカードセット
「セブン」に収録されています。
「セブン」は多種類のゲームを遊ぶことが可能なトランプ的カードセットで、七種類の数字の幅(下は1〜7、上は7〜13まで)を7スートに割り振ったカード(とダイス2つ)が中に入っています。
こちらに、以前「
七つの紋章、七つの部族」というタイトルでリリースされていたトリックテイキングゲームを「セブンショット」と改題して収録しています。
システムデザインは
yio氏(イリクンデ所属)と
常時次人氏(
操られ人形館所属)が担当。
「七つの紋章、七つの部族」も素晴らしいゲームでしたが、前述の「チップが付属していない」という特徴がありました。(最大12点を計上できれば良いんで、そこまで目くじらを立てるほどでもないのですが)
今回、セブンの方にはダイスが2つ入っているため、合計12点まではこのダイスで記録できるようになりました。さらにこのダイスとセブンカードを使って他のゲームも遊べるらしく、そういった小さな工夫も偏食家的には嬉しいですね。
肝心のゲーム内容については、あえてここには書きません。私がことさらにここで述べるほど、感想に事欠いているゲームとも思えないからです。
「七つの紋章、七つの部族」で検索してみれば、このゲームを褒め称える美辞麗句が拝めるはずです。そのほとんどに私も同意します。
・とりっく&でざーと
本作はサークル「操られ人形館」が製作したトリックテイキング系ゲームです。
このゲームの偏食家的グッドポイントは、各プレイヤーが個人シートを持ち、そこで得点を計上できるようにしている点です。
これは、作者の常時次人氏がこれまで多種多様なカードゲーム、ボードゲームを作ってきた経験が生きている証だと言えるでしょう。
更に、個人シート(1枚の紙)にしてしまえばチップを刷るよりも格段に原価を下げることができています。
「チップを用意すると原価が高くなってしまう」を解決しつつ、さらにコストダウンを考える姿勢。これは、美しすぎます。
さらにこの個人シート、ただの得点表示シートではありません。他にも色々な役割を兼ねているのだから、珠玉の逸品と言えます。素晴らしいです。
肝心のゲーム内容についても、触れざるを得ません。何故なら、私が今調べた限りでは、あまりにもこの名作を褒め称える情報が少ないからです。
むしろこのゲームを褒めるために、私はこの記事を書いていると言っても過言ではないでしょう。
以下、ゲームの内容についてです。
とりっく&でざーとはマストフォローのトリックテイキングゲームです。
テーマは、「人間の権力者(=プレイヤー)」が「亜人の戦士たち(カード)」を集めて(トリックテイク)自分の戦力(得点)にする、というものです。
リードプレイヤーが出した亜人種カードと同じ種族(スート)のカードがあれば自分の前に出し、全員がカードを1枚出したら数字の勝負をする。ここはただのマストフォローのトリテです。
そして少し変わってる点として、このゲームにおいての「切り札」は「リードカラー以外」となっており、マストフォローができなかった時に出したカードは必ず切り札となります。
さらに珍しい点としては「パス」があります。1ラウンド中に3回までパスができる(※しなければいけないとも言います)ので、マストフォローを強制的に回避することができます。ただ、パスをした時には、手札を1枚捨てねばなりません。
この時に捨てた手札は個人シートのでざーとエリアに置かれ、全員のでざーとエリアに置かれた捨て札が、後の得点計算に影響を及ぼすのが、このゲーム最大の特徴とも言えます。
パスをした時に捨てたカードは個人シートに裏向きで置かれます。そして、ゲーム開始時にも全員が必ず1枚を捨て札にしており、それは表向きで見えています。
ラウンド終了時、全員のでざーとエリアにあるカードを集め、スートごとにまとめて、それらのカードの数字を合計した上で、順位付けをします。この順位で上位にあるスートのカードは高得点となり、逆に下位にあるスートのカードはマイナス点になってしまうのです。
このシステムが非常にいやらしいジレンマを生んでいるのは、察しの良い方ならお分かりではないでしょうか。私のように察しの悪い方も、プレイしてみれば実感できるはずです。
順位が上に行くということは、すなわちそれだけの数が捨て札にされている、という事です。ゆえに、そのカードは枚数が少なく、貴重な存在となります。
逆に順位が下と言うことは、あまり捨てられておらず、カードが大量に余っているということで、その膨大なマイナス点を一身に受けようものなら……ドMな方なら昇天しかねません。
そんなシビアな環境の中、可視化された廃棄カードを見つつ、他人の獲得したカードも見ながら、他人が置いた不可視の廃棄カードを予想して、その上でトリックを獲得するか、パスをするかも考えて……と。
やっている事自体はシンプルなマストフォローのトリックテイキングなのですが、「特殊な得点形式」と「3度までのパス」によって痺れるような息苦しさが発生しているのです。ここが非常に悩ましく、面白いところとなっています。
このゲームはバツグンに面白い上に、偏食家としての気になるポイントも押さえてあります。
ただ、この面白さがどうも「難しくてわかりにくい」という方向に行ってしまう事が多々あるようです。
明確な理由や原因は各人の中にあると思いますが、そうなってしまう要因を私なりに推測すると、アートワークに問題があるのかなと思いました。
写真や公式サイトを見てもらうと分かるのですが、カワイイ系のイラストを使っています。
もしかしたら、その絵に惹かれてやってみたら、中身が奥深さやシビアさが際立つシステムになっていて、「コレじゃなーい!」となってしまったのかもしれません。
逆に言えば硬派なトリックテイカーたちは、カワイイ絵を見ただけで敬遠してしまう可能性もあるかなと思っています。トリテ愛好者は、同時に古参アナログゲーマーでもある場合が多く、彼らは渋めのテーマやアートを好むため、スルーされているのかな、とも考えました。
ただ、トリックテイキングゲームが好きな人や、悩ましいゲームが大好きなゲーマーさんにはぜひオススメしたいゲームでありますので、もしイラストで敬遠されている方がおられたら、この機会にぜひどこかでプレイしてみて欲しいです。
実は、このゲームには2つの追加ルール「同盟締結」と「証人追放」が存在します。
この2つのルールを入れるとより自由度が上がったり、悩ましさが追加されたりします。
特に「証人追放」は
マストフォローというルールをゲーム中に破っても良いという恐ろしいシステムとなっており、それでゲームを成立させてしまう作者さんのセンスには脱帽しました。
ぜひとも追加ルール込みで色んな人に楽しんでもらいたいと思っています。
関西圏におられる方なら、私が主催する「MoB会」に来ていただければ、体験していただけます。
その他にもどこかでプレイする機会があれば、ぜひ一度やってみてください。
個人的には「トリックテイクの向こう側を見るゲーム」だと思っています。
次の記事は、
Trick-taking games Advent Calendar 2015 の10日目で、kaikoenさんによる「Wizardはドイツ版(amigo)に限る」です。